青島刑事に敬礼!
とにかくこの映画、ラストのシークエンスでの敬礼の“ヒドさ”に尽きます。
「踊る大捜査線 THE MOVIE」★2/5
──全ては観客を楽しませるために。
全編を貫いたその取り組み方は、クライマックスでピークに達する。
ビールのグラスを冷凍庫でカチンカチンに冷やしておいてくれる「気配り」は、時に過剰な「おもてなし」
水滴が氷になってこびりついていたら、なおのこと。
映画はもちろん娯楽であって現実のコピーではない。しかし、この映画は、エンターテイメントとしての仕掛けがとにかく過剰なのだ。
白眉はクライマックスで、刺された青島(織田裕二)を肩に担いで運ぶ室井(柳葉敏郎)。このスローモーションの絵柄がこの映画の指向を象徴している。
事件は解決、しかし青島は傷ついた。スローモーションの中、鮮血に染まる青島を運ぶ室井。二人の間にある友情や確執が、全編(もちろんテレビシリーズも含めて)を通し全て集約されたシーンなのだから、あそこで泣いたという人がいるのもまあわかる。
しかし、一見感動的なシーンに見えるが、戦場の負傷兵ならともかく、あれだけ失血しているのに戸板にも載せないのだからヤクザ映画のヤクザ以下。要は救急車で運ばないことと合わせ技で“泣かせる”演出”をしているのだ。
もちろん、映画ではエンターテイメント性がリアリズムより重視されるのは当然だ。しかし、「本店と支店」といった警察機構の内部描写を売りにしていながら、その一方で突入現場に救急車や消防車両がいないという「仕込み」をしておき、室井に青島を車で運ばせるのは片手落ち。
しかも室井も恩田(深津絵里)も大イビキをかきはじめた青島が、脳硬塞である疑いなんてこれっぽっちも持たないのだから、ご都合主義がすぎる。
これはつまり、世界観よりも観客に対して扇情的であることを選んだということなのだろう。
感動の「敬礼シーン」にしても、制服で外勤中の柏木(水野美紀)が制帽をかぶっていないのは彼女を目立たせるための絵作りだとしても、敬礼の角度がおかしな警察官が何人もいるのだからひどく興醒めだ。
つまり、作り手はあざとさのトッピングには熱心だが、映画をキッチリと作り込む必要はナシ、としているのだろう。
「こんなもんでいいんだよ、客はこんなの好きなんだから」と半可通ぶる顔が目にちらついてしまうのは、被害妄想が過ぎるのかもしれないけれど。
しかし、邦画では客が入らないという現状で、あれだけの結果を出したことは素直に評価したい。
もっとも、上質な映画として作られたことの結果ではなく、仕掛けの巧妙さが成功したということなのだろう。
少なくとも、あれだけあっけらかんとレクター博士をコピーしているのだから、本筋で勝負していると言えるはずもない。
メーカーなどによると、ビールを飲むときの適温は3度とか4度とか言われている。
つまり、冷凍庫でカチンカチンに冷やされたグラスは、ビールの温度を下げ過ぎて旨味を損なってしまうということだ。
しかし、冷たさにシズル感を刺激される人なら、そういったサービスはうれしいことだろう。
そうしたサービスが、正しいマーケティングで、正しい客層に提供されたら、もちろんそれは大成功だ。
しかし、氷ったグラスで飲むビールを好きな人がアイリッシュパブに行ったとして、「ギネス飲んだんだけどなんかぬるくて」と言ってしまえば、それは単なる「酢豆腐」だ。
ところで、「キネマ旬報DB」に、この作品は収録されていない。