新鮮と下焼きの間
JR荻窪駅前の本屋で『「鳥もと」「カッパ」掲載されてます』なんて手書きのポップで平積みで売られていたのがこの本「ビバ☆オヤジ酒場」
「鳥もと
」は、荻窪の駅前にある焼き鳥屋。
アド街ック天国でランクインしたり、何かと紹介されることの多い有名な店。
駅のホームのすぐそば、線路に面したところにあるので、電車を待っていると風にのってタレのこげる香ばしい匂いが漂ってくる。
一方の「カッパ」はモツ焼き屋。
戦後のヤミ市以来のバラック*1をアップグレードしてるんじゃないか、なんて一角にあるディープ荻窪だ。
線路から青梅街道にかけてのブロックは、荻窪ラーメンの有名店がいくつもある「聖地」だが、角を一つ間違ったらピンサロがあるような裏の顔を持っている。
さて、著者は、漫画「OLヴィジュアル系」の作者だという。
前書きに「なぜ私にこの仕事が?」ともあった。畑違いの仕事の依頼に本人も驚いたんだろう。
ともあれ、飾らないスタンスでビュンビュン飛ばす勢いは、エッセイ漫画としてはとても面白い。
著者とその友人たちが好き放題に暴れ回り、突き抜けた痛快さでいっぱいの本になっている。
例えば、荻窪ラーメンの“王者”春木屋のラーメンを「普通のラーメンだった」とキッパリ描いてあったのは「王様はハダカだ!」といった感じで小気味いい。
しかし、グルメガイドとしての価値を期待してはいけない。
「美味しんぼ」のようなウンチクや有用な情報は無い。
「恨ミシュラン」のように本音でバッサリ切って捨てるわけでもない。
うまいまずいを主観的な気まぐれで稚拙に書きなぐっているだけで、グルメものとしてはプロの仕事になっていないのだ。
著者は、とにかく「鳥もと」が気にいったのはいいとしても、「カッパ」の方は、「オッパイ」や「リンゲル(膣)」は「気持ち悪い」「共食い」と騒ぎ立てるだけ。
下焼きしたものを焼き直す「鳥もと」と、新鮮な「レバー」や「チレ(脾臓)」なら、そのまま刺身で食べられる「カッパ」の違いくらいは突っ込んでほしかった。
これは著者の問題というよりは、編集者の発注とディレクションが、そもそも真っ当なグルメ本を指向していなかったのかもしれないけれど。
「鳥もと」の食材については、こんな話も。
同じ荻窪の、とある焼き鳥屋の主人によれば「あそこで焼いてるヤツ(注:店員)がうちにくるとさ、いっつもタレじゃなくてシオばっかり食べてんの。『ウチのはシオじゃ食えないから』って」
もっとも、雨の降る午後に、ロータリーの人やバスの流れをながめながら昼酒──って雰囲気は結構好きだったりもするけれど。
【後日追記:2012/02】
荻窪北口のランドマークだった「鳥もと」も、再開発&JRとの裁判に敗訴(まあ不法占拠なんだから当然だけど)して、もうすこし東側の線路沿いに移転した。
屋台な雰囲気が無くなったのは、風景としてはちょっと残念かな(そしてわざわざ出かける理由も無くなった)
*1:「鳥もと」もまた、その当時に焼け跡を不法占拠し、今の店を建てている