上川隆也の熱演<ラサール石井のミスマッチ

明治座上川隆也主演の「燃えよ剣」を見る。

ラサール石井の演出は、贅沢な予算と舞台装置をふんだんに使った小劇場演劇といった趣。じつはハイテク満載の明治座の舞台装置がフル回転するスピーディーな演出は、なかなかのスペクタクルだった。

前回「剣客商売藤田まこと)」を観たときには、舞台でチャンバラを観るもんじゃないな……と思った殺陣も、かなりのレベルでドキドキさせてくれた。

特に土方役の上川隆也は、振り向きざまに背後の人物の首筋にピタリと刀をつける、といったジェット・リーばり(「HERO」のメイキングにはそういう場面がある……本編にはないけど)のワザも披露と、なかなかに見せる。


しかし、何とも残念なことに、今回の演目と演出は劇場の客層と全く合っていなかった。

大衆演劇の「剣劇」になれてしまっている客は、大御所がヒラリヒラリといった殺陣にならされすぎていて、上川のワザ(前述)では息をのむどころか、ほとんど無反応。

それに、小劇場的(あるいはテレビコント的)な台詞の間合いが全くわかっていない高齢者(明治座の主要客層)は、笑うところではない場所で笑いを連発。珍しく多い若い世代の女性や、男性客はそのたびに興をそがれてしらけてしまう。
間合いだけではなく、土方が「上野松坂屋に奉公していた……」なんて史実まで爆笑ネタになってしまうのだから、これはもうしかたがない。

明治座には珍しく、中座する人がずいぶん多かったのにはそんな影響もあったかもしれない。


そういったミスマッチを抱えながら、休憩を挟んでとはいえ4時間の長丁場、ちょっと辛かったな、というのが大半の人の感想だったかも。

明治座はやっぱり、歌謡ショーでフィナーレというスタイルが似合うのかな、と思った。

オープニングで流れるアップビートの三味線、ドラムやエレキベースの伴奏が入る。緞帳があがると宿場で賑やかに騒いでいる人の群……たけしの「座頭市」を思い出すなというほうが無理な印象だったことには疑問。

エンディングも同じ曲が流れ、満開の桜の大木の下、新選組隊士が一同に会して花見の酒宴……いかにも元禄っぽい様式美だけれど、これは幕末から明治の話。江戸だから元禄というのは硬直しすぎ。


それから、残念だったのは、「燃えよ剣」から離れすぎたアレンジだったこと。
映画「御法度」が「新選組血風録」を逐語的に映画化していたのにはがっかりしたけれど、これでは「燃えよ剣」と銘打つ必要が無さそうなくらいだった。