「サウスバウンド」★1/5

我が人生で最も時間が遅く経過していった映画。お尻が痛くなるまで30分かからないのは文句なしの新記録。


例えば僕は「マジェスティック」や「海猿」といった映画が大キライだけれど、それでもそうした映画を好きな人の存在はわかる。

でも、この映画は、どんな人が喜ぶのか、楽しいと思うのか、全く想像力を及ばすことができなかった。

これまでの我が人生でのワースト映画は、杉浦太陽主演で限りなくVシネに近い“映画”の「零 ゼロ」だったけれど、一応はメジャーの角川映画で、今や大家となっている森田芳光が、人と予算を使ってこんな“映画”を撮ったというのも、なんとも嘆かわしい。


そもそも、「娯楽作」で114分という上映時間は長過ぎる。
とにかく、最初の30分が苦痛で苦痛でしょうがない。

なにしろ物語は進まないし、その上ずいぶんと後になってからしか活用されない伏線の配置に忙しく、観客は、巧妙なシナリオが圧倒的に展開されるスクリーンの前で放置プレイになってしまう。

どうもこの人の映画は「策士策に溺れる」というか「上手の土手から─」といったことが多い。そのへんは「39 刑法第三十九条」、でも「模倣犯」でも思ったことだけれど、かつてのシナリオの魔術師が、今は目的と手段を取り違えてばかりいるのではないだろうか。

どんなに優れたシナリオであっても、それが為にする論のように「まずシナリオありき─」の映画にしかなれないなら、作り手の自己満足にしかならない。


ともあれ、この映画を見た人に聞いてみたい。

東京編(前半)の間、退屈しませんでしたか? と。

理屈なんてどうでもいい。エンターテイメント作品で観客を退屈させてどうする?

そして、なまじシナリオがよくできているから、ともすると「こういうものなのかな?」と納得させられそうになってしまうのもコワい。


とにかく、この映画を見た人に聞いてみたい。

もし地上波で見てたらさっさとリモコンでピッ! とやっちゃいませんか?
レンタルで借りてたら途中で見るの止めちゃいませんか? と。


あまりに上等で、技巧が冴え渡りすぎるシナリオは、今となっては森田の老害にも思えてくる。
とにかくよくできているシナリオなので、登場人物のキャラの書き分けやキャラ立ちは、とても見事なものだ。
でも、ともすると、そうした登場人物が全員森田芳光の分身に思えてくる瞬間もある。
そしてそれは、宮崎駿の映画に対しての思うことによく似ていた。


それから、どうにもゲッソリするしかないのは、いまさら! 学生運動を題材にしているところだ。

ハリウッドは、ベトナム戦争後に、「ディア・ハンター」や「キリング・フィールド」のような佳作を生み出す一方で、凡百のベトナム後遺症映画もたれ流してしまった。

それが日本では「学生運動」に、その類似性を見いだすことができるかもしれない。

もうそろそろ……いいんじゃないですか? そもそも、誰もついていけなくなってきていると思う。
それは時間が経過したからでもなんでもなく、左翼活動家へのシンパシーなんてものは、その当時から存在していなかった、というだけのことなんじゃないだろうか。



ともあれ、トヨエツの怪演には喝采! 大喝采!!
小学生の子供たちの出てくるシーンはなんとも微笑ましかったり、いろいろ思い出させてくれたりと、楽しかった。

でも、もちろんそんなものだけでは二時間弱は持ちませんよ。


ナンセンス!


■サウスバウンド/サントラ

こういう映画にはめずらしく「いい感じ」にバラけてジャジーなピアノだなあ、と思ってたら国府弘子さんでした。



■国府弘子/ニューヨーク・アンカヴァード