「アルゼンチンババア」★2/5

これまた……長すぎ。娯楽作で112分はあり得ない。
たしかに純文学の映画化ではこういうことが往々にしてあるけれど、吉本ばなな的世界を二時間近く展開して、その尺に見合うかどうかを判断するのは、普遍的な度量衡ではなく、その人の吉本ばななに対する価値観だろう。


とりあえず、前半が間伸びして間伸びして退屈でしょうがない。
間伸びの原因は堀北真希を中心にした演出にもある。

なにしろ堀北のアップばっかり。ヘタな芝居しかしていないのに、いちいちクローズアップになる。

ローマの休日」のオードリーだって、「風とともに去りぬ」のヴィヴィアンだって、ここまで無駄に尺は使っていないのに、堀北クラスの「女優」でそれをやるのはあまりに無謀。
彼女のクローズアップを削るだけでずいぶん尺は短くなるし、カミっぱなしで本当に何を言っているのかわからないセリフを削れば、さらにスッキリするだろう。

例によって蓮っ葉なキャラクターをキッチリこなしている森下愛子や、鰻屋の旦那を例によって怪演している岸辺一徳の登場を待ちわびるだけでは、二時間弱は退屈すぎる。



要はこの話、アウトカーストの人が主人公の救世主になるという、ある種ギリシャ悲劇的なお約束で構成されたプレタポルテ

しかも、物語の大きな転換点でキーワードとなるのは「戦争体験」と、いかにも「ばなな」的というか、「吉本」的。

また、死んだ母親が舞台装置のように片付けられてしまって、ラストシーンではとうとう不必要な過去の人になってしまうあたりは、お約束が強すぎて、かなり違和感を感じさせられた。

たしかにこの物語はよくできているし、構造も、展開も、登場人物の個性だって魅力的だ。
でも、お約束で展開している感が強すぎて、なんとも人間味に欠けるところが引っかかってしょうがない。



同じ吉本ばななの原作を、先日酷評した「サウスバウンド」の監督、森田芳光が手がけたのが「キッチン」なわけだけれど、「お約束」「アウトカースト」「約束された悲劇」といった同じような要素を持つ「いかにも」の「吉本ばなな」的世界を、シナリオの魔術師はキッチリと自分流に料理していたあたりがスゴイ。


しかしこの映画は、良くも悪くも吉本ばなな的な世界から一歩も踏み出していない。
なるほど、吉本ばななファンには良いプレゼントになったことだろう。

それから、有坂来瞳と、ココリコ田中直樹の出番は全部カットしたくらいの方がすっきりするんじゃないだろうか。とにかく前半がひどく冗漫だった。




■アルゼンチンババア