メンズブラがどうしても“格好悪い”理由

casa_kyojin2008-12-07


「女性の方のブラジャーは、寄せたり、胸を大きくしたり、というものですが、男性用はそういった必要はない。それより、リラックス効果が出るように、サイドのテンション(締め付け)を高めて、伸びのある素材を使用しました。

パットポケットを付けたため、仕事中は普段目立たないように、アフター5や休みの時は、大きめのパットを入れて胸を大きくすることができます」(ショップ担当者:J-CASTニュース

この商品、「メンズプレミアムブラ」は“男らしく”というコンセプトで開発され、“リラックス効果”などの機能面を重視したとのこと。


「男性がブラジャーを着ける理由は、安心感、リラックス、女性の気持ちを知りたい、など様々」(J-CASTニュース

そんな“理由”を下手にふりまわされたら、自分の中のトランスセクシャルトランスジェンダークロスドレッサーといった指向と真っ向から向き合っている人には、かえっていい迷惑なんじゃないだろうか。

「きのう何食べた?」のシロさんじゃないけど、セクシャルマイノリティーに対する“中途半端な理解”というものは、誤解や偏見そのものよりもタチが悪い


それじゃあ、このメンズブラが、あくまでもブラをつけたい“だけ”の“ブラ男”が対象の商品だとする。

それならなぜ、パットを入れるためのポケットが必要なのか。

パットが欲しくなっている時点で、クロスドレッサーとしての段階は何ステップも進んでいる。
そもそも、女装“だけ”が願望だったとしても、その時点で広義のTSやTGに含まれてしまうはずだ。

そういう人たちに対して「男らしく」なんて言葉を使ってしまうこと自体救い難い矛盾だし、そんな底の浅い欺瞞は、かえって人を傷つけてしまいかねない。


“下着コンシュルジュ”の大鳥居舞によると、ブラ男には、以下の3タイプがあるそうだ。

1. ネクタイを締めるようにブラで自分を締め、気合を入れる人
2. 単に女性の下着が美しい、奇麗だと思う人
3. ブラをすると、優しい気持ちになれる人

しかしこの定義は、単に“広義のクロスドレッサー”を細分化しているだけだ。

ネット通販業者や、“コンシェルジェ”なんて人たちが、どうしてそこまで“ブラ男”にやさしいかというと、その本音は、単にそれがビジネスの鉱脈の一つと判断したからだろう。

そんな言葉尻に踊らされ“ブラ男”だなんて耳あたりの良い言葉で自分や社会をごまかし、“気合いが入る”“優しくなれる”なんて言葉を弄ぶことは、まさに先述の“中途半端な理解”でしかなく、かえって差別者の側に一歩足を踏み入れてしまうことになりかねない。


フェミニズムセクシャルマイノリティを語るとき、その状況に“名前をつけたがる”という行為は、往々にしてセクショナリズムに束縛されがちだ。

例えば、性同一性障害GID)がいい例だろう。

GIDの人たちの中には、それこそ椿姫彩菜ではないけれど「私は女。オカマと一緒にするな」といった調子で、男性として男性に恋愛感情を持つホモセクシャルの男性を嫌悪する場合がある。

同じように「私は“ブラ男”女装のオカマと一緒にするな」なんてことになってしまったら、その行き着く先はなんとも悲しい“近親憎悪”という地平の最果てだ。


それこそ新宿界隈で、“組合員”の人たちとこんな話をしたことがある。

「ハゲ自体は格好悪いわけじゃない。格好悪いのはヅラが“バレてない”と思い込んでいるときだろう。

──ゲイも同じじゃないか?」

誰だったか、ショーン・コネリー所ジョージのことを“ポジティブ・ハゲ”と書いてあるのを読んだことがあるけれど“言い得て妙”だ。


また、このメンズブラという“文化”は、大袈裟に言うと文化人類学的に“非常に興味深い”

クロスドレッサーの人が、ブラジャーをパットのホルダーとしての用途ではなく、そこに女性としての「必要条件」を見いだしているとしたら、なんとも不思議な矛盾がそこにはある。

考えてみてほしい。いつでもどこでもブラジャーをつけていたい! という女性がどれだけいるだろうか。

そもそも、かのウーマン・リブの時代には女性解放の象徴として広場で焼かれていたのがブラジャーだったはずだ。
女性抑圧のスケープゴートにまでされたわかりやすいイコンを、ブラ男たちは過剰に求め過ぎているのではないだろうか。


真逆の位相に飛び込んだ人間は、過剰にそのスタイルを取り入れようとする、ということは往々にしてある。

戦争映画で、ドイツ兵の捕虜がカタコトの英語で"Fuck Hitler!"と言いながら命乞いをしていたシーンを思い出した。


■Men's premium brassiere メンズプレミアムブラ 男性用ブラ

「ブラじゃないよ!」のコマーシャルは時代を予言してた? ……まああれは“大胸筋サポーター”らしいけど。

■男性用ブラ、ネットショップで人気商品に
(ロイター - 11月23日 11:03)

日本のオンライン下着販売会社が売り出した「男性用ブラジャー」が、ネット上に登場してから瞬く間に人気商品となっている。

インターネットショッピングモールの楽天市場で「ウィッシュルーム」が2週間前に発売して以降、1枚2800円の「男性用ブラ」はすでに300枚以上売れているという。

実際に着用して見せたウイッシュ代表取締役の土屋将利氏は、「ちょっと締め付けられる感じ、なんかいい感じ」と語った(注:いちばん上の写真)

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■男性用ブラジャーがすごい人気
ゲンダイネット - 11月30日 10:00)

男性用のブラジャー、どこで売れているかというと、ネット通販。

黒や白、さらにピンクのブラを着けた「男」のマネキン写真と一緒に、「やさしくなれる」「安心できる」??ネット上にこんな文句が並ぶ。

ウィッシュルーム」(東京)が扱う「メンズプレミアムブラ」だ。驚くなかれ、強豪がひしめく「楽天市場」のメンズインナー部門で2週続けてランクインと、すごい人気を誇っているのだ(現在、4週連続のトップを守っている)


【後日追記:2012/02】
女装子や下着女装といったムーブメント、サブカルが突然盛り上がったわけでもないのに、三年と少し前、急にメンズブラが話題に。

そこで書いたのがこの文章だったけれど、いまならリンクのいくつかを添え、たった一言でツイートできたのかもしれない。

──はい、ステマステマ