かねひろ 羊ヶ丘通店(札幌) ★☆☆☆☆

casa_kyojin2009-09-14


長沼の「かねひろジンギスカン」の直営店。

あらかじめタレにつけ込んだ肉を焼く“味付けジンギスカン”といえば滝川の「松尾ジンギスカン」が長く北海道では“定番”となっていたが、近年は「かねひろ」のさっぱりとした味の認知や人気が高まってきている。


──しかし、この店はいけない。

ここで食べることができる“ジンギスカン”は、北海道で一般的に食べられている「味付けジンギスカン」とは全く異なるものだ。



直営店だけあって、出てくる肉自体は間違いの無いものだ。
しかし、金網と無煙ロースターを用いるオペレーションには致命的な問題がある。

この店はジンギスカンだけではなく、カルビやタン塩といった一般的な焼肉店にも並ぶメニューが供されることから、無煙ロースターが用いられているのだろう。
しかし、これでは味付けジンギスカンの味わいは徹底的にスポイルされてしまうしかない。


ジンギスカンを焼く「ジンギスカン鍋」は、一般に鋳鉄製で、真ん中が高く盛り上がった形をしている。
充分に熱した鍋の頂上でヘットを溶かす。肉は中央部、野菜はその周りや縁の溝部分に並べる。
そして、タレや肉から出た肉汁は、周りの野菜やイモ餅に、肉の旨味とタレの滋味豊かな味わいを、宿命的にしみつけていく。

──味付けジンギスカンとは、そういうものだ。


家庭の食卓で、運動会で、海水浴で、キャンプでジンギスカンを食べたことのある北海道の人は、思い出して欲しい。
味付けジンギスカンの味わいとは、肉はもちろん、褐色のタレと、そこに溶け込んだ肉の旨味をたっぷり吸い込んだタマネギやモヤシ、ジャガイモやナス、〆のうどんやラーメンといった素材にこそあったはずだ。

そして肉を、野菜を、たらふく食べていくうちに箸もまた、その褐色を身にまとわりつかせ、ご飯茶碗の中を同じ色に染めていく。タレの味を染ませた白米は、天丼やうな重の頭の下のご飯と比べても決して引けを取らないほど美味しいものではなかったか。

北海道民の多くが「ソウルフード」として親しんできたジンギスカンは、そういうものだったはずだ。


しかし──ジンギスカンを金網で焼いてしまえば、そうした“ファクター”を味わうことができなくなってしまう。
金網の上にのせられた肉は、そうした旨味を網目から無為に落とし続け、タマネギやモヤシといった野菜を甘く芳しく彩ることは決して無い。


ジンギスカン鍋が無い家庭でホットプレートを代用する場合、野菜に味を染ませるためには足に何かをかませ、鉄板をナナメにするとよい。
朝鮮のサムキョッサルをそうして家庭で焼く時、同じようにナナメにするのは無駄な脂分を落とすためだ。

その素材、その料理には、外すことの出来ない最適の調理法があるというのは、そういうことだ。


生肉(あるいは味を付けていない冷凍肉)を焼く場合、比較的脂身の多いマトン肉やホゲット肉に対しては、いくつかの穴をあけたジンギスカン鍋が有効に作用する場合はたしかにある。

しかし、ことジンギスカンに関する限り、スケスケ、スカスカの金網に何かを期待するのは難しい。


金網で旨味も何もかも全て落としてしまうこの店に、北海道民ソウルフードは無い。

かねひろ 羊ヶ丘通店

食べログ かねひろ 羊ヶ丘通店


■池永鉄工 南部池永 ジンギスカン鍋 浅型

一般的なジンギスカン鍋はこういう形。
放射状に切られた凹みをつたって“ゴールデンドロップ”が周りに落ちていく。



■池永鉄工 南部池永 ジンギスカン鍋 深型

最近はこのように外周部の溝を深くし、旨味をたっぷり受け止められるようにしたものもある。



■池永鉄工 ジンギスカン鍋 穴明 29cm

文中で触れた「穴をあけた──」鍋がこれ。
“穴”といってもこの程度の“スリット”が配置されているだけ。