mixiという“床屋の裏庭”

casa_kyojin2010-12-09

■mixi新機能「余計なお世話」またも休止(産経:2010.12.3)

 国内最大手のSNSmixi」を運営するミクシィ(東京都渋谷区)は3日、SNS上でつながりを持つ「マイミク」に自分の動きを伝える新機能を、ユーザーの反発を受け停止した。2日には別の新機能を停止したばかり。

 今回停止したのは、自分が誰とマイミクになったか、どのコミュニティーに参加したかを、自動的にマイミクに通知する「友人の最近の動き(アクティビティ情報)」の機能。1日に導入されたが、機能をオフにすることができないため、ネット上には「自分の動きが逐一報告されるのは嫌だ」などと批判が殺到していた。

 2日の時点で、ミクシィは「変更の予定はない」と回答。しかし「アクティビティ機能やめて」と題したコミュニティーでは、参加者が増え続け、登録するユーザーが出るたび「アクティビティ機能」で同機能に反対する意志が拡散される展開があった。ミクシィは3日午後6時ごろ機能を停止。今後は機能をオフにできるようにして、再開する予定。

 ミクシィでは2日にも、知人のメールアドレスを入力することで知人のmixi上のページにたどり着くことのできる新サービスを、ユーザーの反発などを受け、停止していた。

 笠原健治社長は「ここ数日、新機能のリリースと休止が相次ぎ、ユーザーの皆様にご迷惑をおかけいたしましたことを深くお詫び申し上げます。引き続きスタッフ一同サービスの向上に努めてまいりますので、何卒よろしくお願いいたします」とコメントを出した。


12月早々、mixiはずいぶんと慌ただしいことになった。

まず、11月末に、メールアドレスの入力で、そのアドレスでmixiに登録している“友人”のトップページにアクセスできる「メアドでマイミクになる」機能を実装。

簡単に個人を特定できるとあって、──見つけてしまった、──見つけられてしまった、といったトラブルが続出。

“プライバシー侵害”との声の、大きな高まりに、mixi運営当局は12月2日、仕様を従来のものに一旦戻すことになった。


また、翌12月1日には、マイミクシィの追加や、コミュニティへの参加をする度、そうした動向が自動的に自分のマイミクに“通知されてしまう”機能、アクティビティを実装。

しかしこれも、“ストーカー機能”との反発が強まり、同様に3日には、仕様変更が一旦取り下げられた。


こうした一連の仕様変更は、一見、友達の友達=友達、といった能天気な理想主義や、薄甘サヨク同調圧力が、キチガイ刃物的に振り回された印象もある。

しかし、思惑は別のところにあったのではないか? という気もする。

「アクティビティ」の表示ワクが、mixi当局“ご執心”のアプリの動向と一緒に括られてることからの邪推、暗黒予想だが、これは即ち、ユーザーの動向を公開、流通させることが、アプリ同様に“商品”として扱うシステムが整備された──といった裏でもあるのではないだろうか。


mixiというSNSが、ユーザーではなく、スポンサー、金主の方を向いたパッケージになってしまってから、久しい。

株式上々は2006年のことだけれど、それ以降の機能の“充実”と、ユーザー疎外の高まりは、正比例しながら、その度合を強めてきた。

とにかくプッシュされるのはmixiアプリばかり。mixiボイスもすっかりアプリの宣伝の場所として席巻されている。

さらにこの9月には、トップページの仕様変更で、コミュニティの新着書き込みを目立たない場所に左遷──という実に“わかりやすい”仕様変更もあった。


そして──今回の仕様変更騒動だ。

mixi当局の一連のやり口、無手勝流の商業主義に対しては、既に無数の批判が為されているので、ここで繰り返すことはしない。

しかし──別の角度から論じてみよう。

mixiアプリや、今回の仕様変更など、プライバシーの流通=カネ、というパッケージが、mixiのビジネスモデルになってしまったとして、その傾向を助長したのは、他でもないユーザー自身だったのではないか?


プライバシーを食い物にしているmixi当局は、もちろん狡猾で悪辣だ。
しかし、みすみす無防備な姿を晒しているユーザーも、脇が甘すぎるのではないだろうか。

例えば、mixiを、会社や学校の人間関係のグチ、彼氏彼女とのあれこれ──といった赤裸々なプライベートの捌け口に利用しているユーザーは多い。

その生々しさ故に、公開範囲はマイミク限定。しかし、ユーザー検索やメールアドレス検索はオンのまま──だったとする。
そして、ユーザー検索でたどり着いた人をストーカー扱いしたり、憤ったりしてしまうのだ。

そんなのは──逆ギレにしかなれないだろう。

当のユーザーは、mixiをあくまでも「王様の耳はロバの耳」的に“床屋の裏庭”としているつもりなのかもしれない。
でも、SNSがWebに成立しているものであるかぎり、公開範囲をどう限定しようと、その声は天下の往来に届いてしまうのだ。


もちろん、今回の仕様変更のように、メールアドレスがトップページに直結──なんてラジカルな機能が、デフォルトで“オン”に設定されているというmixiの姿勢自体が、問題の本質として存在していることは間違いない。

しかし、ここで指摘したいのは、それ以前の、個人が情報を扱う姿勢や、プライバシーに対する自覚と、ポリシーの問題だ。


以前、一部mixiユーザーの露悪趣味を、“ブラジャーのストラップ”に例えて書いたことがある(■拙ブログ:マイミクさんという“露出狂”


ブラひもが肩口からのぞいていたとして、その人は、見えていることに気づいていないかもしれない。

──仲の良い友だちなら、指摘できるだろう。でも大多数の他人は、だらしない、と思っておしまいだ。

あるいは、“見せブラ”なのかもしれない。

──それがセクシーに決まっているのであれば、カッコいい。反面、ファッションとしてチグハグであれば、どうにもカッコ悪い。

そして、「見るなスケベ!」という場合。

──アンタに見せてるわけじゃない……ということなのだろうが、実際見えてしまっているのだから、困ってしまう。


そして、ネット社会というのは、家の中でも、近所の路地でもなく、世界中の人々が常に行き来している幹線道路で、繁華街なのだ。


……とはいえ、今回のmixiの仕様変更は、背後からそーっと近づき、無理やりシャツを引きちぎったようなものだけれど。



そして、メールアドレスからmixiのトップページに直接アクセスできる機能は、様々な事件も巻き起こしてしまった。

例えば、出会い系サイトに援交の“営業”をしている女性のアドレスを、mixiで検索。
個人を特定し、日記などにそれを暴露する書き込みをする──といった愉快犯も登場している。

この場で、援助交際という名の売春、犯罪の是非を語るのはナンセンスだ。

しかし──

・普段使っているアドレスをmixiの登録アドレスにすること

・援交掲示板のようなアングラな場にそのアドレスを書き込むこと

──これは、セキュリティ意識の低さという点において、程度の差はあっても、同じ地平の話でしかない。


アドレス検索をデフォルトでオンにしているというmixi当局のやり口は、じつに非道だ。
しかし、彼らが付け込んでいるのは、そうした不用意、無自覚なユーザーの脇の甘さ──ということもまた、現実だろう。



ともあれ、ばたばたとした朝令暮改の嵐が吹き荒れている中、メールアドレスから個人のトップページにアクセスすることはできなくなった。
しかし、しばらく前に実装され、今もバリバリ稼働中の、Gmailの住所録との連動機能には、まだまだ注意が必要だ。

この機能、Gmailの住所録の中から、mixiに登録されているアドレスをピックアップ。
ズラっと並んだアドレスから、マイミク申請ができる──というものだ。

僕も“友人”を探してみたが……“意外”なmixiユーザーを何十人も発見することになって、びっくりしたり、悲しくなったりしてしまった。

mixiはやってません」と言ってた人を、何人も見つけたり、裏アカを持っている人を見つけ、一体何をしてるのかなあ、と思わされてしまったのは──正直、あまり愉快な出来事ではなかった。


この“便利”な機能からのマイミク申請なんて、とてもじゃないけれど出来たものじゃない……というのが、正直な僕の感想だ。

こうして発見されてしまい、マイミク申請が届いたとして──一体、誰が楽しいというのだろうか。

やはり、mixiのこうした一連の機能は、ユーザーに新たな交流を提供するために用意されたものではない、と思う。

こうして、個人情報や、その動向が“商品”としてパッケージ化されてしまった今、mixiユーザーには、より一層のプライバシー意識、セキュリティ意識が求められている、ということだろう。

■mixiアプリをつくろう! OpenSocialで学ぶソーシャルアプリ

あれほどあった“mixi本”を、最近はすっかり見かけなくなった。
やっとみつけても、この通り「mixiアプリ」の開発側に向けられたものだ。

mixiというSNS、パッケージは、ネットリテラシーの低いユーザーの個人情報の草刈り場として、重宝されるだけの存在になってしまったのかもしれない。