引越しでチャラにできるもの

casa_kyojin2011-11-15


ひさしぶりに、ごくごく個人的な話。


引っ越しの良い所は、色んなものをチャラにしてしまえる事だ──と言っていたのは村上春樹だけど、本当にそう思う。

これまでの人生、どれだけ引っ越したのかな……数えてみよう。
北海道→北海道→北海道→北海道→埼玉→北海道→札幌→世田谷→北海道→北海道→世田谷→世田谷→世田谷→東京→世田谷→東京→神奈川→杉並→練馬

──30年弱で18回っていうのは……多い方なんだろうな。

立ち退きを二度経験したりとか、中には望まない引越しもあった。
一番長く住んだのは、実家を除けば、ひとつ前に住んでいた杉並の七年。
立ち退きにならなかったら、まだ住んでただろう。

村上春樹のいう「色んなもの」というのは、とどのつまり、人間関係に行き着く。

引越しには「近くに来たら遊びに来てくださいね」なんて挨拶がつきものだけど、こんなのは枕詞みたいなもので、凡そ意味が無いことがほとんどだ。
僕自身、実家や学校の寮以外で、ご近所づきあいだけの人間関係が引っ越してからも続いたことは唯の一度もない(ご近所さんだというだけで、それ以上のつきあいになった人もまた、いない)

おそらく、ご近所さんとのコミュニティというのは、そのときには有用かもしれないにしても、どこか一過性のものなんだろう。


そして、ネット社会では、SNSというコミュニティが、まさにそうした環境をバーチャルになぞっている。

mixiがすっかり引き潮になってしまった現状を、ストーカー行為が──とか、ソーシャルゲームへの特化が──と説明することは簡単だ。
でもまあ、みんな飽きちゃったから引っ越した、ってだけの話かもしれない。

その街にも、その家にも、長く住み続けるだけの魅力も理由も無くなってしまったから、もっと魅力的な街の、もっと魅力的な物件に引っ越す人が増えた──そんな気がする。

そしてそこでは、「色んなものをチャラ」の法則が、リアル・ワールド以上に、じつに便利に活用されている。
みんな、関係性のスクラップ・アンド・ビルドに忙しい──というか、人間関係の焼畑農業を続けることに、抵抗がない人が増えたんだろう。



さて、またお引越しだ──といっても、メールアドレスの話。

今まで使っていた転送メールアドレスがサービスを終了してしまうので、あわてて新しいアドレスの環境を整えている。

この“引越し”で、望むと望まずにかかわらず、多分いろんな人間関係が“チャラ”になるのはリアルな引越しと同じだ。
新しいアドレスを報せても、もうなんのリアクションもくれない人もいるだろう。
そして僕だって、新しいアドレスを知らせない、という選択をする相手もいる。

誰かとのメールのやりとりがとぎれるということは、死刑宣告が遅れてやってくるようなものだ。
Facebookの友達、twitterのフォロワーから突然消えるのも、それと変わらない。
そんなものが届いた頃には、頭と胴体はとうにギロチンで泣き別れになっている。

人間関係で、切ったり切られたりっていうのは、当然だけど、それ相応の理由がある。
わかってはいる。
わかってはいるけれど、やっぱりせつない。

──たとえ僕が、時に同じことをするとしても。


僕だってそんなことはしたくない。
でも、スルーするにしても、我慢するにしても、限界というものがある。

見えないように、聞こえないようにやってるつもりなんだろうけど、最後は誰かの耳に入ることになるってわからないのかな、いい大人なのに。


僕はときどき、自分が幹事になって、美味しいものを食べにいく集まり──なんてのをやっている。グルメ秘密結社──なんて“ごっこ遊び”のつもりだ。
そこに、今年から参加するようになった人が、メンバーに借金の無心をして回っていることがわかった。

金額はなぜか、判で押したように五千円。
決して大きくはないけれど、何度も繰り返せば万単位になる。

美味しい物が好きなオトナが集まって、浮世の義理から離れた所で、珍しいものや、人数がいないと食べられないような料理を楽しむ──なんて場を、借金や寸借詐欺の類のターゲットにされたのではたまらない。
なんだか、みんなと一緒に世話をしてた公園の花壇から、花をブチブチ刈りとられてしまったような気分だ。

その人は、これまでの人生で、そんなふうに“小銭を集めてチョン”といった類の焼畑農業を繰り返してきたのかもしれない。
世の中にはそういう人がいるものだ、というのはわかる。

しかし、決して関わりたくない人種のひとつだ。


胸の中のPNGリストに、また名前が増えた。


■シュパーテン:オプティメーター

“グルメ秘密結社”が今年最後に集まったのは、5月の日比谷のオクトーバーフェストでした。
このシュパーテンも生で飲めて、ほんとに楽しかった……んだけどなあ。