上井草スポーツセンターというカオス

casa_kyojin2012-05-02


東京・杉並、上井草スポーツセンター前の道路(画像)
対向二車線で、両側の歩道がゆうにとれるだけの道幅を一方通行とし、たっぷりとした左右の歩道の間に、杭やカラー舗装で区分された車道が、クネクネと蛇行して設置されている。

この蛇行による、クルマの通行速度の抑制を、歩行者とクルマの交通事故対策として評価する意見がある。

──しかしそれは、大きな誤りだ。
この道路は、むしろ、安全に欠かせない要素の不備という、大きな問題を抱えている。


歩行者を交通事故から守ろうとするなら、まず第一義にクルマと歩行者の交通モードを分離させることが必要だ。
例えば歩道、縁石やガードレールといった存在がその役目を担う。

しかしこの道路には、間遠に設置された杭があるばかりで、交通モードの分離という観点からは、歩行者はちっとも守られてはいない。

実際、クルマの重量による運動エネルギーは、低速でも歩行者に大きなダメージを与えうる。

20年前──僕は、歩道も何もない道路の路側帯で軽自動車にひき逃げされた。
救急車で搬送され、断裂した靭帯は、再建手術が必要と診断された。
今も神経痛が残るこの事故で、加害者の車は時速30kmも出していなかった。

あれが普通車だったら、トラックだったら……と思うとゾッとする。
しかし、せめて縁石があったら、何も起こらなかったかもしれない。

つまり、道路のフェイルセーフとは、そういうことだ。

もし、この道で、歩行者の集団がクルマになぎ倒される事故が起こったら、何を批判するべきか?
無免許か、癲癇か、居眠りか?
交通モードの分離とは、そうしたドライバーの過失があった際にも、ガードレールや段差、縁石といった存在が、フールプルーフとして機能するということだ。


では、この道路にはなぜ縁石やガードレールが設置されていないのだろう。
蛇行を強いられたクルマの接触事故で、管理責任を問われることから逃げている? もしそうなら、本末転倒だ。

──大丈夫、クルマは蛇行させて速度を落とさせていますから。
しかし、杭の間隔の状況は、歩行者を充分守りきれるものではない
さらに「教習所を思い出す」と言う人もいるカーブの連続も問題だ。

例えば、路側帯をカラー舗装する際に、車道を見かけ上では蛇行しているように錯覚させ、心理的効果としてのスピード抑制を狙う手法がある。
しかしこの道路では、それなりのステアリング操作が必要な角が連続し、フールプルーフの考え方には逆行している。

この道を評価する向きからは「(クルマが通る速度として)30キロ以上は難しい」という声もあるが、現実には、制限速度の30km/hどころか、40km/h以上で通るクルマも珍しくない。
中には、ジムカーナスラロームのように、前輪を交互に沈み込ませ“華麗に”クリアしていくクルマもある。


また、間遠な杭=車道と歩道の区分が曖昧なことは、歩行者がどこからでも横断を始めたり、横一列に広がって歩道からはみ出す、といったマナーの悪さも助長している。

そのような状況で、無為な蛇行を強いられたクルマが、歩行者、自転車と同一平面上で混在する交通モードは、むしろ危険といえるだろう。

──しかし実際に、これまで大きな事故は起きていないではないか。
といった指摘は無意味だ。
群馬・藤岡の関越自動車道の防音壁でも、これまでああいった事故は起こっていなかった。


しかし、歩道やガードレールを設置すれば万事丸く収まるかというと、そう単純な問題でもない。

たしかに、この現状に段差のある歩道とガードレールを加えれば、強固な安全対策になる。
しかし、この蛇行を敬遠するドライバーが、上井草駅西側の踏切に寄りつこうとしない、という現状は、街づくりの視点からはマイナスとなっている。
地域コミュニティにとって、道路は血管のようなものだ。血流のない組織は、やがて壊死してしまう。


交通モードの分離、クルマと歩行者、自転車の共存、街づくり──こうした要素を織り込み、改善案を考えてみる──

南側のアプローチで、車道を一度、緩くクランクさせ、ドライバーに注意をうながす。
西(スポーツセンター)側の歩道は広くとり、東側の歩道の幅は最低限に留める。
両側の歩道と車道は、クランク以外はまっすぐ。

北側T字路に横断歩道を設置。車道をここでも緩くクランクさせ、歩道の幅を左右で入れ替え。
広い歩道を東(駅)側に切り替え、西側を細くする。

車道と歩道の分離は、クランクや横断歩道などの要所はガードレールや杭で補強するが、大半は中低木を織り交ぜた植栽で行う。

クルマの速度抑制は、路面のグラフィックや、街路樹のちょっとした張り出しなどによる視覚的、心理的効果を主とする。
現状のようにステアリング操作が必要な蛇行や、バンプのような物理的障害で、ドライバーとクルマに無用の圧迫を加えることは避ける。

歩道には、植え込みなどを互い違いにゆったりと設置。
むしろ歩行者こそ蛇行モード=全幅を使いきっての直進ができない状態になってもらい、横一列に広がろうとすることや、自転車の乱暴な走行を緩やかに防ぐ。
車道との間に生け垣状に配置された植栽は、いつでもどこでも横断を始める歩行者や、縦横無尽に車道に飛び出そうとする自転車を抑制する。

人と自動車をどちらもゆったり通行させることを、なるべく高いレベルで実現させたい。
現状の施策は、一方的で無用の緊張をクルマに強いているだけだ。


東京・杉並、上井草スポーツセンター前の道路の蛇行、クルマの速度抑制を“安全”と評価している人は、夕方〜夜の、駅へと歩く人が多い時間帯に、ご自分でこの道を運転してみてほしい──それも、雨の日に。

横一列に広がり車道に溢れだす傘の波。
一方通行のクルマに向かい、まっすぐ突進してくる片手運転で傘をさした自転車。

抑制するべきは、むしろこのカオスの方だろう。


安全のためには交通モードの分離が必要。
そして、地域コミュニティのためには、クルマと歩行者、自転車の共存が不可欠だ。

現状のような、上っ面だけの“安全”は、この二つの要素を同時にスポイルしている部分がある。

双方をもっと高いバランスで両立できるよう、挑戦できることはまだまだあると思う。


■渡辺とおる「上井草アニメーターズ」(1)

駅前にガンダムのブロンズ像が立つ、サンライズのお膝元の上井草。

ケロロ軍曹」「男子高校生の日常」と、“聖地”としての地盤を気づいてきた杉並区上井草が、とうとう舞台としてだけでなく、タイトルにも進出。

街を歩くと一見してアニメータな人たちを多く見かけるし、商店街でカレーを食べている時に、現場スタッフたちの、監督やテレビ局に対しての“リアルな悪口”を聞くことができるたりするのも、お土地柄?