北海道拾遺

casa_kyojin2006-04-20


北海道滞在中のネタをひさしぶりに。


小樽の隣の余市という町は、ニッカウヰスキーの故郷として知られている。
創業者の竹鶴政孝が寿屋(サントリー)と袂を分かち、本来の理想に立ち返ってモルト作りの拠点として定めた土地だ(ちなみに竹鶴の寿屋在籍当時、妥協して選ばれた場所が、現在もサントリーの主要施設となっている山崎蒸留所)

ウイスキーというものに対するニッカの「こだわり」と、サントリーの「ビジネス」のことをここで書くことはしない。
ただ、ニッカの親会社のアサヒビールが「ビールの味わいの三要素の二つだけしか持たない(マイケル・ジャクソン)」商品で「ビジネス」を行っているのに対して、サントリーがモルツという「こだわり」を見せていることは非常に興味深いコントラストだ。


その余市蒸留所には博物館が併設されており、興味深い展示を多数見ることができる。
ズラリと並んだシングルカスクモルトが、熟成年数や樽の種類によって様々な色や香りのグラデーションを見せてくれる様子は圧巻だ。

そして、こういった施設の常として、試飲コーナーがあることがまたたまらない。この日はシングルカスク10年ものを試飲することができた。

また、ここならではの商品として、無色透明の未貯蔵の原酒が販売されているのがユニークだ。
これはモルトウイスキーとしては未完成どころか半製品といっていいくらいのものなのだけれど、この鮮烈な“アロマ”は、ウイスキー好きならば一度は経験しておいた方がいいかもしれない。

販売担当者からも「焼酎みたいな水割りにして飲んでもらうか……」といった「アドバイス」が出てくるようなキッツイ酒なんだけれど、ウイスキーの成り立ちだとか歴史みたいなものが、圧縮ファイルのように濃厚な香りとともにグワッと立ち上がるこの原酒、やはり一度は体験してほしいと思う。


日本にこうした「本物」のモルトがあることを、ウイスキー好きはもっと誇りに思ってもよいのではないか。
ニッカという会社とその製品のプレゼンスは、日本ではもちろん、北海道においてでも何故だか不当に低いような気がするのだけれど、どうだろう。
例えばアイラモルトはたしかにおいしい。でも、アイラはアイラ。余市余市のはずだ。
それがホンモノである限り、モルトはその土地の水と空気が、独自の個性を作り上げてくれるものだ。



写真は、石造りの蔵が建ち並ぶニッカ博物館の敷地内の風景。
三月半ばの大雪で雪化粧。でも空は春が近いことを思わせる青さに白い雲。北海道に住んでいた頃、いつも眺めていた懐かしい風景だった。


■ニッカウヰスキー:余市10年 シングルモルト 45°