めんめん亭(神奈川:藤沢)★★☆☆☆
辻堂に住んでいた頃にときどき利用していました。
“近所のラーメン屋”としてこのレベルの店があったことは、辻堂時代の数少ない幸せだったことのひとつです。
自宅兼店鋪? といった趣の新築のビルは小ぎれいで、店先には寸胴鍋の中に作り物の野菜が浮かび、そこから湯気が……なんて「看板」が置いてあったのを思い出します。
店内のポップやメニューに、塩は……、昆布は……、豚は……、といった素材や水へのこだわりがいろいろと書いてあり、スープが無くなると営業時間中でも終了。そんな感じの店でした。
すっきりと澄んだスープは、荻窪系のラーメンのような醤油クドさや、化学調味料の味とは無縁。チャーシューもジューシーで食べごたえがありました。
躊躇無く「美味しい」と言えるクオリティだったのですが、その一方、何かが足りない、どこかイマイチ……という印象もありました。
この店のラーメンは、壁面の口上にあるように、一つ一つの要素がしっかりと吟味されており、その仕上がりはかなりハイレベルでカッチリとしたものでした。
スープはしっかりとってある、タレも味わい深い。麺も美味しいしチャーシューもジワっと滋味にあふれている。でも──どうにもラーメンとしての満足感が足りないのです。
だからといって、ゲンコツや煮干しが主張し過ぎて臭いだけだったり、化学調味料たっぷりの出来合いのスープに“満足”があるわけもありません。
“美味い”ラーメンというのは、結局のところよい素材とカッチリとした仕事のバランスにあると思います。
過剰な温度と時間で煮立てたことで生臭くなったスープや、旨味が抜け過ぎてパサパサになったチャーシューといったネガティブ要素は、間違った思い込みや杜撰な仕事から来るものです。
そして舌が痺れるような化調は、素材的にも大きなマイナス点になります。
しかし、良い素材を良い仕事で組み合わせても、それだけではキャラが立たない──その店のラーメンでなければ、という“魅力”、その店の“個性”にはならないということでしょう。
そして、そうした店は、近年とても増えたと思います。
こだわりの素材、その道のプロが手がけた店鋪やメニューのデザイン、スタッフの服やバンダナなどのかぶりもの……。
いかにも“美味しそう”なパッケージがズラリと揃っている、なのに──食べると“満足できない”
そうした“小ぎれい”な店としてのステレオタイプにはまり込んでしまっている店とそのラーメンを、個人的に「ニューラーメン」と呼ぶことにしています。
僕がそんな「ニューラーメン」を初めて発見したのは、まさにこの店でした。
- ジャンル:ラーメン
- 住所: 藤沢市辻堂新町2-17-8
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- (写真提供:湘南こたろう)
今となっては、生涯の友を“発見”した思い出の場所──とも思えるようになった辻堂だけれど、僕の湘南暮らしには、それまでの荒んだ仕事や、破綻した私生活からの隠棲という意味が多分にあったこともあって、ひどく後ろ向きのものだった。
あまり良い思い出は無い、というか、本当に記憶が曖昧で飛んでいる。
でも、とにかくサーファーだらけで、お母さんたちは今でもレイヤー(──ドカットの方、為念)で、そして老若男女の誰もがサザンオールスターズを好んで聞いていた──そんなことくらいはよく覚えている。海側でもなければ、藤沢の中心部からも遠かったこともあり、いわゆる湘南的なアイテムやディテールともほぼ無縁な静かな場所で、静かにアウトサイダーとして無為に過ごしていた日々。
そして最後は、住んでいた家に関する詐欺事件の被害者となったことが、湘南を出るピリオドとなったのだから、いろいろなことが“仕方が無い”のかもしれないけれど。
……それでも見つけたら買っちゃうのかな。