“汚染米の産地偽装”というカラ騒ぎ 2

casa_kyojin2011-10-04


前回は──汚染米事故米の流通や、銘柄や産地の偽装は今に始まったことではない。

玄米の袋の「JAの検印」の有無が、コメの真っ当な流通の証明になるとは限らない。
──といったことを書いた。


今回は、コメの小売用の袋に偽物はあるのか? ──について考える。

結論から言っておく──“小売用のニセ袋”なんてものは、この世には存在しない。


いささか古い話になるが、ある産地で、食用米の新品種がデビューしたときのことだ。

新聞やCM、テレビのニュースやローカル番組は、その新銘柄米を盛んに宣伝。その産地にとっては、史上始めてのブランド米の登場だった。

ほどなくして、新聞やテレビで、こんなニュースが流れた。
「新ブランド米◯◯のニセモノにご注意!」

曰く、新ブランドのブームに便乗した偽物が出回っている。
本物と偽物は米袋が違う。買うときには米袋を確かめて──と、ご丁寧に本物と偽物の写真も例示して注意を促す内容だ。


ところがその頃、産地では、その“ニセモノ”を米屋で大量に見ることができた。
米屋の主人はこんなことを言うのだ。
「“ホンモノ”より、こっちの方が上等で美味いよ」


じつはこのエピソード。食糧管理法が廃止される直前の話だ。
食管法の末期には、かつてはヤミ米とされた「自主流通米」が過半数から2/3を占めていたとも言われている。
その新ブランドがデビューしたのは、そんな微妙な時期のことだった。

食管法の下、お上のお米を集めて流通させる御役目に躍起になっていたJAは、そのブランド米の流通にあたって、「JAに収めたコメでなければ、“正規”の袋を使わせない」という策をとったのだ。

しかし、米屋が生産者直売に近い形の販売を行うケースは、その頃からどんどん増えていた。

その米屋が売っていた“ニセモノ”こそ、地元の生産者が丹精した逸品で、地元の消費者に最低限度の流通経路で販売されていた「顔の見えるコメ」だった。

そうした場合、JAの“ブランドコントロール”によって、“ホンモノ”の袋は使えない。
そこで独自に印刷された袋が使われたわけだが、それをJAはキャンペーンを張って、排除しようとした──という、じつに本末転倒な話だ。


小売用の袋に、本物も偽物も無い──ということが、こんなエピソードからもわかる。

とはいえ、袋の中に入っているコメが偽物、ということはあっただろう。

コメを選ぶとき、信用するべきはその袋に書かれている産地でも銘柄でもない。
とどのつまり、その米屋の目利きと、誠実さが、信頼に足るのかという問題なのだ。


「福島のコメは危ないから、宮崎のにしとこうね」
──なんて選択は、上っ面の自己満足でしかない。

偽装小売業者なら、そのコメが何処産だったとしても、用意しておいた“小売用の袋”に印刷してある産地で売ってしまう──それは今に始まったことではない。

そうした業者なら、これまでも農薬や化学物質による「事故米」を、知らん顔をして売りさばいていたかもしれない。
これまで以上に、米屋に対する信頼が問われている。
“被曝米”は危ない、福島のコメは危ない──という“から騒ぎ”をする前に、消費者はもっと冷静にならなくてはいけない。



じつは前述のエピソードは、北海道での話だ。

彼の地のJAはその後、新品種のデビューでさらに厳しいブランドコントロールをするようになった。
その年の収穫のうち、どれだけを出荷し、自家消費用や縁故米*1とし、そして種籾として残すのかを、予めJAに届け出なければならない──というのだから、なんとも物々しい。


食管法が完全に消えた今、そんなJAのコントロールを嫌い、JAには一切出荷しない、という生産者もいるという。
しかし、魚沼のようなブランド産地ではない北海道で、産直販売がそうそうビジネスになるわけでもない。
そうした生産者は、どんな出荷をしているのか? 現地の生産者に尋ねたことがある。

「あそこの家ならJAに一粒も出荷しないもんな」
その言葉には、否定的なニュアンスがあった。

どうやら、品質の割に値段が安い北海道の米は、産地や銘柄を偽装するための“混ぜ米”として、格好のターゲットになっているようなのだ。
そして、そうした“素材”としての道産米を積極的に扱う業者があるという。

「そういう商売をしてる流通業者がいる?」
「まあそうなんでないかい」
「普通の業者なんですか?」
「あんまり大きい声で言えないけどヤクザとかさ……」

また、前回の拙ブログにアクセスしてくれた検索ワードには、「暴力団 米 流通」といったものもあった。
関心というか、そうした懸念が集まるようにもなっているのだろう。

それこそ、流通価格の安さが、混ぜ米、あるいはニセモノとして重用される条件だとしたら、前回も触れたように、平成23年産の福島産コシヒカリは、それこそ南魚沼産コシヒカリを騙るコメとして格好の素材だ。


そうした状況で、米袋に書いてある産地を愚直に信じるような消費者は、むしろ偽装業者にとっては上客になるだろう。
福島産だからダメ──といった思考停止をしているようでは、自己満足という安心はできても、本当の安全には届かない。

──今こそ冷静になってほしい。

米袋には、ホンモノもニセモノもない。
しかし、コメには本物と偽物がある。

そして、安心と安全の違いを、今一度考えてみてほしい。


北海道産「ななつぼし」玄米5kg

そうした厳しいブランドコントロールが行われているコメのひとつがこの品種。
ブランド力によるコメの値段の格差がシビアに存在する今、コストパフォーマンスの高さでは“狙い目”だと思う。
ほんとに、美味しいですよ。

*1:親戚や知人にプレゼントしたりすること