あずみ2 Death or Love ★☆☆☆☆

casa_kyojin2011-10-21


前作「あずみ」が予算が豊富な「ゼイラム2」なら、今度は同じ無駄遣いをした「くノ一忍法帖」か。

北村龍平は自分の作風を出し切って、それでも結果を出せなかったけれど、金子修介は彼自身の仕事ができていたかどうかもあやしい。



まず、正直なところを告白すると、僕はこの作品を「弔い合戦」だと思って、大きな期待をしていた。
つまり、金子が北村に対して「ゴジラの仇をあずみで討つ」ことを期待していたのだ。

北村龍平は、前作の「あずみ」で原作の漫画も、日本の時代劇的作法もズタズタ、グズグズにしたミュータントを世に出した。
その続編を、金子修介が撮る!

金子ゴジラに対する低評価には、もっともな部分があるにしても、ゴジラの末期の水を北村龍平のような無頼漢にとられてしまったことは、日本のトクサツを愛する人間の一人として、痛恨の出来事だと思っていた。

舞台が一枚下がってしまうにしても、その北村龍平金子修介その人が天誅を下すチャンス!……と、外野で一人勝手に盛り上がってしまっていたのだ。


冒頭、断崖絶壁に追いつめられたあずみが刀を抜く。

そして彼女はこのシーンでだけ、前作風(つまり「ブレイド」風というか支那風)の刀の取り回しをしてみせるが、その後は一切こんなふざけたマネはしない。
もうこれだけで「仇討ち」の期待は高まる!

しかし、その野放図な期待と盛り上がりが、ものの見事に打ち砕かれてしまうのに長い時間はいらなかった。

たしかに、前作は「あずみ」でもなければ「時代劇」でもなかった。
しかし、「北村龍平劇場」としての個性は充分に持っていた(そして僕はそれが大嫌いだ)

ところが、この続編は「な゛ん゛な゛ん゛だごれ゛ばー(劇中のセリフから)」といった正体不明の作品にしかなっていなかったのだから話にならない。


ただただダラダラと続く冗漫なストーリーに、まず退屈する。
殺陣のスピードも、セットの規模も、前作より格が落ちた。

上戸彩は前作同様に健気にがんばってはいるものの、例えば栗山千明にしたって、ダメダメくの一をニコニコ演じている間は居心地が悪そうでしかたない。
内通者だとわかるまでのシークエンスが無駄に長かったか、キャスティング自体の失敗だろう。

平幹二郎も存在感や重厚さとは縁遠い使われ方だったし、高島礼子の極妻セリフも新春かくし芸大会的なお約束。

まぁ二人のカラミにはドキドキしたということにしてもいいけど、あれと彼女の甲冑のデザインのおかげで「高予算"くの一忍法帖"」になっちゃったことを思うと、バツもいいところの大バツだ。

金角、銀角はイマイチキャラが立っていないし、金角役の遠藤憲一は前回のチョイ役の悪役の時とまるで同じ芸風なのが不可解。

適役の土蜘蛛と六波に至っては、メイクや衣装、ギミックも悪趣味の最たるもの。

北村龍平的な悪フザケは確かに子供騙しだったけれど、金子修介がくだらないCGでスプラッターを見せたことを何と言っていいものか……。


そもそも、"Death or Love" とか言っているけれど、"Death" はともかく、"Love" ってなんだ?

大体、金子修介に"Love" なんて期待しちゃいけないことに、誰も気づかなかったのだろうか。

僕自身、贔屓の引き倒しになるほどの金子ファンだったにしても、彼にそういうストーリーや味といったものは全く期待したことはない。
彼が描けるLoveは「卒業旅行 ニホンから来ました」のようなラブコメか、ガメラ藤谷文子の頬にサッと傷がついたり、前田愛の一世一代の名シーン「……熱いよイリス」くらいのものだ。

にしても、金子そのひとらしいシーン、演出が、しびれ薬に倒れたあずみの苦悶の表情くらいにしか無かったとしたら、この映画は金子修介の仕事としてはほとんど価値のないものになってしまう。



たしかに、この映画の製作中に「いろいろあった」というような話も聞こえてくる。金子修介その人にとっては不本意なこともたくさんあったのかもしれない。これまでも、金子修介は一作目のガメラの「いろいろ」で本を一冊書いてしまっているくらいだ(「ガメラ監督日記」)

でも、それが「仕事」というものなのだろうし、そういう「いろいろ」は誰にでも(それこそ北村龍平にだって)あるものだろう。

たまたま平成ガメラでは、その後の二作で意趣返しをできたかもしれないが、この作品では、もやもやがどうにも残ってしまったようだ。

そうした現場でのあれやこれやについては、金子修介自身もブログで、そのへんを匂わせるようなことを書いている。
それにしても、プロデューサーの山本又一郎……ひと騒動あった「ミシマ」にも噛んでる人だけに、いろいろ想像してしまう。

大島渚・前監督協会理事長が、「監督たるもの、自分の映画の悪口を三年間言ってはならない」と仰ってますので。
なんか、『影武者』武田信玄の遺言みたいだな(初日舞台挨拶 2005/03/14)」


とはいえ、「ガメラ金子修介」が「ゴジラの─」になれなかった時点で、僕も贔屓の引き倒しをやめておくべきだったのかもしれない。

彼は、ガメラで成功し、日本特撮、怪獣映画にこの人あり! とはなったものの、それ以前もそれ以降も、一般映画で成功しているとは言い難い。

それに、ゴジラで失敗(ファンの評価はさておき)したことを考えると、彼は「ガメラ金子修介」ではあっても、それ以外の何ものでもないのかもしれない。

本作が、怪獣映画やいわゆる特撮映画に近いところにあった映画だけに、今回の失敗は痛い。
映画監督としての金子修介には、市場的、芸術的評価はもちろん、個人的贔屓度にも黄色信号が点滅してしまった。

しかし、それでもなんでも“次”への期待を捨てきれない。
次こそは、伊藤和典がいなくても、樋口真嗣がいなくても、これが金子修介だ! という痛快な一撃を見せてほしい。心からそう思う。






それにしても栗山千明。なんて笑顔の似合わない女優なんだろう。あらためて惚れ直した。

以前出入りしていた仕事場で、何度か居合わせたことがあったけれど、たしかにローティーンのころからとんでもないクールビューティーだった。
彼女がパーティーション一枚隔てた向こうで打ち合わせをしているだけで、ドキドキして仕事にならなかったことを思い出す。

金子修介への“贔屓の引き倒し”は、最近は別の意味でちょっと落ち着いている。
というのも、twitterでの“少女時代ラヴ”な感じが余りにも強烈で、ついていけなくなったからなんだけど。
ウルトラマンマックス」のころのブログは面白かったんだけどなあ。


■あずみ2 Death or Love